東京高等裁判所 昭和38年(ネ)1465号 判決
ところで一般に宅地建物取引業者は、不動産取引について専門的な知識と経験を有するものであり、従つて業者に対し不動産売買の媒介を依頼する者は、その専門的な知識経験を信頼して依頼するのであるから、宅地建物取引業者としては依頼者その他取引の関係者に対し、信義を旨とし誠実にその業務を行うことを要するとともに(宅地建物取引業法第一三条)、業者はまた依頼者に対して委任ないし準委任の関係に立つのであるから、委任事務の処理に当つては委任ないし準委任の本旨に従い、善良なる管理者の注意を以てこれを処理する義務を負うのである(民法第六四四条、第六五六条)。従つて宅地建物取引業者としては、不動産の売買を媒介するに際しては当該不動産を現地において調査するはもちろん、関係人への問い合せあるいは登記簿その他の資料の調査等の方法により、不動産の公簿上の所有名義人が何人となつているか、真実の所有者が何人であるか、担保権、賃貸借等の負担が存するか否か等を確認し、さらに現実に売買契約をなす者が代理人である場合においては、委任状、印鑑証明等によつてその代理権の存否あるいはその範囲を調査すべきはもちろん、もしこれらの点について疑がある場合には、直接本人に照会する等の方法によつてこれを明確にし、さらに以上の調査結果を依頼者に報告して、依頼者に不測の損害を及ぼすことのないように注意すべき義務あるものというべきである(宅地建物取引業法第一八条第一号参照)。そうしてこれを本件について見れば、控訴人は登記簿上本件家屋が亡西山末吉名義となつており、本件宅地は第三者の名義となつていること末吉の相続人としては長男勘一の外数名の子がおり、勘一は精神病者で入院治療中であること等を知つていたのであるから、契約締結前にこれを依頼者である被控訴人に告げるべきであることはいうまでもなく、右のような複雑な事情があり、果して菊田の言うように相続人等の間で本件不動産を菊田の妻であつた西山光の所有とする旨の協議ができているのか否か、また菊田がこれを売却処分する権限を与えられているのか否かについても疑念を持つているのであるから、この点につき前記のような方法により十分調査してその結果を被控訴人に報告すべき義務あるものというべきである。
(満田 中川 藤田)